土地の贈与税・相続税の税額計算に使用される土地の価値のことを「相続税路線価」と呼びます。
相続税路線価は、普段生活するなかではなかなか馴染みのないものです。しかし、いざ贈与税や相続税が発生した際には、申告期限までに税額の計算から申告までの完了させなくてはならないため、ご自身で相続税路線価を調べる場面に直面する方もいらっしゃいます。
そこで本記事では、相続税路線価についての基礎知識と合わせて、ご自身で相続税路線価を確認する方法や、土地の価値を表すその他の指標についても解説します。
「路線価」とは土地のどのような価値を表すもので、どのような場面で利用されるのか、基本的な知識を解説します。
路線価の話をする前に、まず念頭に入れておきたいことがあります。それは、「土地には定価が存在しない」ということです。
土地の評価額は、算出した価格を何に利用するかによって、異なる基準に基づいて計算されます。土地の評価額が必要な場面は、土地の売買以外にも、固定資産税の計算、贈与税・相続税の計算、銀行での融資額の決定(担保評価)などさまざま。計算する基準が異なれば、当然算出される土地の価格も異なるため、「定価」を固定することができないのです。
したがって、本記事で主に取り上げる「路線価」も、あくまでも1つの基準に基づいて算出されるものである、ということは覚えておきましょう。
「路線価」は、道路に割り振られた土地単価のことを指します。
この「路線価」という言葉は、厳密には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」の2つを合わせた総称です。
ただし、固定資産税路線価があまり一般に浸透していないこともあり、「路線価=相続税路線価」の意味で使われることが多くあります。
相続税路線価と固定資産税路線価の大きな違いは、使用される用途にあります。
相続税路線価は、土地の贈与や相続の際に発生する税金(贈与税・相続税)の税額を算出する際の基礎となるもの、それに対して「固定資産税路線価」は、土地の固定資産評価額の基礎となるものです。
この2つの路線価の違いは下記のとおりです。
比較項目 | 相続税路線価 | 固定資産税路線価 |
求められる評価額 | 土地の相続税評価額 | 土地の固定資産税評価額 |
評価額により算出される税金 | ・相続税・贈与税 | ・固定資産税・都市計画税・登録免許税・不動産取得税 |
評価の主体 | 国税庁 | 市町村(東京23区は東京都) |
評価頻度 | 毎年 | 3年に1回 |
評価時点 | 1月1日 | 基準年(3年ごと)の1月1日 |
公表時期 | 毎年7月頃 | 基準年の4月頃 |
価格水準 | 公示価格の80%程度 | 公示価格の70%程度 |
「相続税路線価」は、それを根拠にして贈与・相続される土地の相続税評価額を算出し、そこから贈与税・相続税の税額を計算するものです。評価は毎年国税庁が主体となって行い、1月1日時点での価格を7月頃に公表します。
「固定資産税路線価」は、宅地などの固定資産評価額を算出するのに用いられ、さらに固定資産税評価額を用いて、土地の所有者に毎年課せられる固定資産税や都市計画税、その他の税金の税額を算出します。評価を行う主体は市町村で、評価が行われるのは3年に1回です。
また、価格水準に関しても、相続税路線価は公示価格の80%程度なのに対し、固定資産税路線価は公示価格の70%です。ひとくちに「路線価」と言っても、相続税路線価と固定資産税路線価では大きな違いがあることがわかります。なお、公示価格については後ほど詳しく解説します。
上記では、相続税路線価と固定資産税路線価について解説しましたが、土地の価格には他にも「実勢価格」「公示価格」というものも存在します。
「実勢価格」は「時価」とも言い、土地の売買が成立した価格のことを指します。
土地の取引額は、土地が所在するエリアや経済状況、売主・買主間の事情によって変化するため、必ずしも適正価格(相場)とは一致しません。
例えば相場が4,000万円の土地の所有者が、早く売りたいという理由から3,000万円で売却すれば実勢価格は3,000万円になり、逆に好条件の土地で購入希望者が複数いる場合は、相場よりも高い5,000万円で売却されるかもしれません。そのため実勢価格が確定するのは、土地の売買が終了した時点ということになります。
過去に取引の行われた土地の実勢価格は、国土交通省の「土地総合情報システム」から「取引価格情報」から調べることが可能です。
公示価格には「公示地価(地価公示価格)」と「基準地価」の2つがあり、いずれも土地の基準となる「正常な価格」として、公的機関が毎年公表しているものです。
土地の売買においては、売主・買主の事情や経済状況などの影響により、取引価格が変動することも少なくありませんが、公示価格が示す「正常な価格」は、そうした特殊な事情がない状況で取引が成立する「適正価格」のことを指します。公的機関が適正価格を公表することにより、正常な価格で土地の売買が行われるようにしているのです。
「公示地価(地価公示価格)」と「基準地価」の詳細は、下記の表にまとめています。
公示地価(地価公示価格) | 基準地価 | |
概要 | 国土交通省が毎年発表する価格 | 各都道府県が毎年発表する価格 |
調査の名称 | 国土交通省地価公示 | 都道府県地価調査 |
土地の評価方法 | 1地点につき2人以上の不動産鑑定士が鑑定し、国土交通省が結果を審査して決定 | 1地点につき1人以上の不動産鑑定士が鑑定 |
評価時点 | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 |
発表時期 | 毎年3月 | 毎年9月 |
評価地点 | 全国2万6,000ヶ所*の標準地 | 全国2万ヶ所以上の基準地 |
*令和3年時点
公示地価(地価公示価格)は、地価公示法という法律に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年公示する、標準地の「正常な価格」です。鑑定される標準地は一度決定したら継続というものではなく、毎年点検が行われ、基準に満たない土地に関しては標準地の変更(選定替え)が行われます。
土地の売買を行う際、取引の対象となる土地から1番近い標準地の公示地価(地価公示価格)を調べることで、売買される土地の正常な価格を知ることができます。そして近くに標準地として選ばれた土地がないときに、各都道府県が発表している「基準地価」を参照することになります。
つまり、公示地価(地価公示価格)と基準地価は、評価の主体や評価地点には違いがありますが、性質としては同じものです。
2種類ある路線価のうち、贈与税・相続税計算の基となる相続税路線価は、一般の方でも調べる場面に直面する可能性があります。実際に相続税路線価が必要になった場合、どのように調べたらいいのでしょうか。
相続税路線価を調べるには、国税庁のホームページに掲載されている「路線価図・評価倍率表」で、路線価図を閲覧するという方法があります。
国税庁「路線価図・評価倍率表」https://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm |
具体的な閲覧方法は下記のとおりです。
・表示された日本地図の中から、調べたい土地のる都道府県をクリックする
・該当の都道府県の財産評価基準書目次に移るので、目次のうち「路線価図」をクリックする
・区名・町名等で検索できるページが表示されるので、索引の中から目的地域の路線価図を確認する
国税庁のWEBサイトでは、直近7年分の路線価図を閲覧できるため、過去にさかのぼって相続税路線価を調べたい場合でも活用できます。
なお、相続税の申告時に利用する路線価は、「申告する時点の路線価」ではなく、「相続開始日の年度の路線価」である点は押さえておきましょう。
相続税路線価は、国税庁のホームページの路線価図で確認するのが最も確実ですが、一般財団法人資産評価システム研究センターが運営している「全国地価マップ」で確認する方法もあります。
一般財団法人資産評価システム研究センター「全国地価マップ」https://www.chikamap.jp/chikamap/Portal?mid=216 |
全国地価マップでは相続税路線価だけでなく、固定資産税路線価・地価公示価格・都道府県地価調査価格も閲覧可能。地図上からの検索以外にも、郵便番号を入力すれば対象地点をスムーズに表示できるという利便性の高さも特徴です。
ただし、掲載されているデータは一般情報によるもののため、実際に贈与税や相続税の計算をする場合には、必ず国税庁のホームページや税務署で得られる情報を参照しましょう。
相続税路線価は贈与税・相続税の計算に、固定資産税路線価は固定資産税の計算にそれぞれ用いられるということは既に解説した通りですが、この2つの路線価のうち、相続税路線価については、設定されていない地域も存在します。
相続税路線価が設定されていない地域においては、路線価を使用しない方法で相続税評価額の計算を行います。この方法を「倍率方式」と呼び、下記の計算式を用いて計算します。
固定資産税評価額×倍率=相続税評価額 |
対象となる土地の固定資産税評価額は、毎年5月頃に送付される「固定資産税課税明細」に記載されており、そこに国税庁のホームページで公開されている倍率をかけることで、相続税評価額を算出するという方法です。
相続税路線価は主要都市の道路に対してのみ設定されているため、郊外の土地の贈与税・相続税を計算する際には、上記の倍率方式を用いることになります。
贈与税や相続税が発生した際、正しい手順を踏めば一般の方でも税額を計算することは可能です。
しかし実際のところ、路線価図を入手できたとしても、そこから路線価をチェックし、土地の評価額を正しく算出することは、一般の方にとって決して容易なことではありません。それだけでなく、土地や建物といった不動産は、贈与・相続される財産の中でも特に価値が高いもので、適切な方法で税額を計算しないと、大きく損をしてしまう可能性もあります。
土地の評価額や税額の計算が必要になった場合は、税理士をはじめとした専門家に相談し、正しく納税できるように努めましょう。
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参考
SUUMO「路線価とは?マップの見方や土地の評価額の出し方を紹介」
https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/tochi/tochi_money/rosenka/
仙台市総合コールセンター 杜の都おしえてコール「固定資産税路線価と相続税路線価はどう違うのですか」
相続会議「相続税路線価と固定資産税路線価の違いは?相続税の土地評価の注意点も解説」
ホームセレクト「土地の実勢価格の調べ方と計算方法をどこよりも分かりやすく解説!」
不動産鑑定の知識「地価公示の【標準地】はどのように選ばれる?」
相続サポートセンター「相続税路線価とは?土地評価の調べ方や評価額の計算方法を解説」
https://vs-group.jp/sozokuzei/supportcenter/souzokuzei/landprice/#i-3
御影みらい相続センター「Q36【わかりやすく】路線価図の見方/路線価はいつの年度のものを利用するのか?」
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