新しいオフィスに移転する際のリフォームやリノベーションには多くの費用が必要になるため、節税のためにも正しく会計処理をしたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。
オフィスの内装工事費用は一見すると一時的な支出のように思われますが、ひとつの資産として減価償却を行うことで、一定期間にわたり毎年の費用として計上することが可能になります。
今回はオフィス移転時の内装工事費用を正しく計上するための、工事内容の分類の仕方と、減価償却のために必要な耐用年数の考え方について、わかりやすく解説します。
賃貸オフィスにおける内装工事とは、間仕切りのための壁や建具の設置、床・壁・天井の仕上げ、塗装といった、貸室内の工事のことを指します。特に近年においては、コンセプト設定を明確にしたオフィスデザインを採用したり、社員の業務効率向上を図るためのレイアウト変更を行ったりと、オフィス移転時に内装工事を行う企業が増えています。
そしてこの内装工事にかかった費用は、毎期末の会計処理の際に「減価償却」を行うことが可能です。
「減価償却」とは、購入した資産の価値を、それぞれの耐用年数に応じて年度ごとの費用として分配することをいいます。例えばオフィス移転時に新しくパソコンを購入したとします。この場合の購入費用は、購入した年に発生した費用として全額計上されるわけではなく、4年(または5年)に分割して費用計上することになります。この分割した費用が「減価償却費」と呼ばれるものです。
購入した資産の価値を一度に計上しない理由は、会計上の考え方において、「企業が得られた収益に対応する支出のみを費用として計上する」という考え方があるためです。減価償却を行うことで、購入した資産が複数年にわたり、企業の収益にどのような影響を与えたかを正確に把握することが可能になります。
個人事業主の場合は減価償却処理を行うことが義務とされていますが、法人の場合は減価償却を行うかどうかの判断は委ねられています。しかし、減価償却を行わないということは法人税法上の利益が大きくなることになり、法人税などの納税額が大きくなります。
つまり法人の場合は、減価償却を適切に行うことで節税になるということです。
ただし、利益が出た年のみ減価償却費を計上し、赤字の年には減価償却を行わないといった処理をしていると、銀行の融資を受ける際の審査に影響する可能性も否定できません。税法上減価償却は毎年適切に行うことが望ましいとされているためです。
減価償却の際に重要なのが、それぞれの資産の「耐用年数」です。
オフィスの資産に関する耐用年数とは、資産を取得してからその資産の価値がゼロになるまでの期間のことを指します。例えば購入した20万円のパソコンの耐用年数が5年だった場合、20万円を5分割した4万円が毎年減価償却費として計上され、5年が経過したところで「資産価値がゼロ」になるということです。
耐用年数の考え方の原則は、使用頻度や使用方法を考慮した「経済的使用可能予測機関」を耐用年数とし、その年数に応じた減価償却を行うというものです。同じ「パソコン」という資産でも、業種や職種によっても使用頻度などが異なるため、本来であれば個別に使用可能な期間を見積もらなくてはならないということです。
しかし、全ての資産について使用可能期間を見積もるためには、多くの時間と労力が必要になります。そのため実務上は、国税庁が設備や備品の種類ごとに定める「法定耐用年数」を基準にするのが一般的です。
パソコンやデスクといった具体的な備品の場合、「耐用年数」が「資産価値がゼロになるまでの年数である」ということはイメージしやすいと思います。それではオフィス移転時に内装工事を行う場合、内装工事に対する減価償却と、減価償却費の算出に用いる耐用年数はどのように考えるべきなのでしょうか。
オフィス内装工事にかかった費用の減価償却費は、「建物」「建物附属設備」「その他什器備品」の3つに分けて耐用年数を考える必要があります。1つずつ詳しく解説します。
オフィスの内装工事における「建物」部分というのは、主に床や壁・天井に対する工事のことを指します。壁を撤去したり天井を抜いたりといった工事だけでなく、壁紙の貼替なども「建物」の工事に該当します。
壁や床の使用を変更したり造作したりする内装工事は、建物自体の価値を高めるものであるため、建物の耐用年数に応じて減価償却を行うというのが原則です。しかしオフィスビルの場合、建物の構造によっては耐用年数が30〜50年と定められているケースもあり、壁紙の貼替程度で30年もの耐用年数を適用するのは現実的とは言えません。
そのため賃貸の場合は、契約時に契約期間を定めているかどうかを基準にして、異なる耐用年数を適用します。
賃借期間の定めがある契約の場合は、賃借期間を耐用年数として償却を行ってよいとされています。
「賃借期間の定めがある」というのは、オフィスを借りる契約の期間が決まっており、かつ更新ができない賃貸借契約ということです。オフィス契約の場合、「定期賃貸借契約」という契約形態がこれに該当します。
内装工事にかかった費用が大きく耐用年数が短いほど、毎年計上する減価償却費の金額が大きくなります。契約更新のない定期賃貸借契約は借主にとって不利になる部分も多いですが、減価償却時に適用される耐用年数が通常より短くなるため、節税という面ではメリットもあるということです。
なお上記が適用されるのは、賃貸借契約書上で「内装に関して買い取り請求ができない」と定めている場合、つまり、オフィスを退去する際に原状回復が義務とされている場合に限ります。
賃借期間の定めがない契約の場合は、合理的な耐用年数として10〜15年で減価小規約されるのが一般的です。
「賃借期間の定めがない契約」というのは、単に「期間を定めない契約」だけを指すわけではありません。オフィスを契約する際に多く採用される「普通賃貸借契約」では、賃借期間を2〜3年と設定し、契約期間が満期となったタイミングで契約更新を行います。こうした更新ができると定めた普通借家契約も「賃借期間の定めがない契約」として扱われます。そしてオフィス契約の場合、稀に定期賃貸借契約の物件も存在するものの、多くの場合は賃借期間の定めがない契約である「普通賃貸借契約」です。
普通賃貸借契約の場合の内装工事の耐用年数には法律で定められた基準がなく、造作の種類や使用した材料などによって異なります。しかし一般的なオフィスにおいては、内装をひとつの資産としてとらえ、「通常の使用であればこれくらいで資産価値がなくなるだろう」という目安のもと、10〜15年程度を耐用年数とするケースがほとんどです。
「建物附属設備」は建物に付帯して効果を高めるものを指し、設備の種類ごとに耐用年数が異なります。
国税庁が公表している資料によると、オフィスの内装工事で手を加える可能性の高い、電気設備・給排水ガス設備・空調設備・消火設備の耐用年数は下記のとおりです。
設備の種類 | 耐用年数 |
電気設備(照明設備を含む。) | 蓄電池電源設備:6年その他のもの:15年 |
給排水又は衛生設備及びガス設備 | 15年 |
冷房、暖房、通風又はボイラー設備 | 冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のmの):13年その他のもの:13年 |
消化、排煙又は災害報知設備及び格納式避難設備 | 8年 |
(参照:国税庁『減価償却資産の耐用年数表』)
なお、家庭で使用するような取り外しが容易な照明器具は、購入方法・設置方法などによって「消耗品」として計上したり、家庭用エアコンを設置した場合には「器具及び備品」として計上したりする場合もあります。
建物や建物附属設備のほか、オフィスの内装工事の際に設置したり購入したりしたものも減価償却の対象です。
種類 | 耐用年数 |
事務机、事務いす及びキャビネット | 主として金属製のもの:15年その他のもの:8年 |
応接セット | 接客業用のもの:5年その他のもの:8年 |
陳列だな及び陳列ケース | 冷凍機能付又は冷蔵機付のもの:6年その他のもの:8年 |
電子計算機 | パーソナルコンピュータ(サーバー用のものを除く。):4年その他のもの:5年 |
電話設備その他の通信機器 | デジタル構内交換設備及びデジタルボタン電話設備:6年その他のもの:10年 |
(参照:国税庁『減価償却資産の耐用年数表』)
上記をご覧いただくとわかるとおり、備品によって細かく耐用年数が決められているため、仕分けを面倒に感じるかもしれません。しかし、丁寧に細分化することで備品ごとの耐用年数を短くできるケースが多く、つまりは毎年計上できる減価償却費を増やせる可能性が高まるという点は、しっかりと押さえておきたいところです。
オフィス移転時には移転先の内装工事費用だけでなく、旧オフィスから退去するための原状回復工事費用も発生します。
新しいオフィスにおける内装工事は、建物の価値を高めることから資産として扱われ、減価償却の対象になります。それに対して原状回復工事は、建物を「賃借開始時の状態に戻す」ことを目的としていることから、一般的に原状回復時に行われる下記の工事にかかった費用は「修繕費」という扱いになります。
・床の張替え
・クロスの張替え
・照明交換
・空調機の撤去
・クリーニング費用
・産業廃棄物回収費用
など
なお、工事の対象に固定資産が含まれていた場合には「固定資産除却損」としての処理が必要になるため、廃棄時には必ず「廃棄証明書」をもらうようにしましょう。
オフィスの内装工事費用は、正しく分類し減価償却を行えば法人税などを節税することが可能になります。しかし工事の内容や使用する材料、導入する什器・備品の種類によっては、総務や会計のご担当者様だけで判断することが難しいケースもあるため、必要に応じて税理士などに相談することをおすすめします。
企業の無駄な支出を減らすためには、節税だけでなく移転にかかる費用も最小限にしたいところ。オフィス移転時には移転先の内装工事だけでなく、旧オフィスの原状回復にも多くの費用がかかるため、できる限り無駄なコストが発生しない・ビルオーナーと近い距離で交渉を行えるサービスを利用するといいでしょう。
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